近所に「もも」「ゆず」にとっての、ひいおばあちゃんがいた。
「ゆず」が生まれた頃には、老人施設に入ってしまったので、会ったことがあるのは「もも」だけだ。
それとて、2歳くらいまでのこと。
「もも」は、ひいおばあちゃんのことを、ひいばぁば、と呼んでいた。
そして、少し怖がっていた。
いつ行っても家が暗い。
表情が乏しい。
ジッとしている時間が長い。
ゆっくりと喋るし、訛っている。
明らかに、どう対応していいか分からず、戸惑っていたのが分かる。
対して、ひいばぁばは、自分のひ孫だと分かっていたのか怪しい。
妻を捕まえては、
「奥さんところのお嬢ちゃんは、可愛らしいね」なんて言ってる。
この時点で妻のことを孫と認識していたかは、かなり怪しい。
そして、私が同席すると、なぜか黙ってしまう。
「すみませんね、お茶も出さずに」と言われたが、緊張した表情でテレビを見ていた。
いろいろ、認識がズレていた。
でも何だか長閑な空間だったので、時間があれば様子を見に、「もも」を連れて行った。
初めは、ひいばぁばと2人になると、慌てて部屋から飛び出してきた「もも」だが、ある時から急に慣れ始めた。
ひいばぁばの誕生日のこと。
当時の「もも」は、誕生日のロウソクを吹き消すのが大好きだった。
だから、自分のだけでは飽き足らず、私のも妻のも吹き消していた。
ひいばぁばの時も、ケーキが出てきた途端、
「ももちゃん、ロウソク、やう。」
「やる」が「やう」になってしまうが、吹き消したいとのこと。
どうぞどうぞということになり、ひいばぁばに誕生日の歌を歌ってから、吹き消してあげた。
たったこれだけのことだったが、なぜか次に行った時からは、「ひいばぁば、ひいばぁば」と寄って行くようになった。
相変わらず「奥さんところのお嬢ちゃん、人懐っこいね」とか言われてたけど。
その後、「🎵ひいば、ひいば、ひいばぁば」とリズム良く繰り返す歌を考えて、歌い聞かせるぐらいの仲になっていった。
ひいばぁばも、満足げに、手拍子を打ちながら、ひ孫の遊びに付き合っていた。
「この子は歌が上手だ」と喜んでいた。
そんな、ひいばぁばも、施設で100歳の誕生日を過ぎてから、大往生を迎えた。
苦しむことなく、静かな最期だったようだ。
今の「もも」は、ひいばぁばのことをあまり覚えていない。
それでも、「🎵ひいば、ひいば、ひいばぁば」の歌だけは、なぜか覚えている。