「もも」の話
彼女は自家用車が苦手でした。
どこかに出かけようとして車を使っても、
最初の数十分は静かに乗っているのですが、
だんだんと黙り込んでしまいます。そのうち騒ぎ出します。
「気持ち悪い!」と。
車酔いが激しいももは、ホントに自動車が嫌い。
乗って出かけようとするだけで、嫌がります。最後には泣き叫びます。
「もう、こんな○×△#&%!わぁぁぁ!」
何を言っているか分からないうえ、大暴れです。
誘拐された子供でも、こんなに叫ばないかもしれません。
しかし、親としては、途中で止めて休んだとて、
それは時間を延ばすだけのことであって、根本解決にはなりません。
ベルトを外して横にしたり、奥さんが抱っこしたりと、
あの手この手で自動車を目的地まで動かし、
どうにかたどり着くわけです。とはいえ、
そこに至るころには、乗車した人間がみな疲れ切っているようなわけです。
ある時、少しは気分が紛れるかと思って、後部座席にテレビをつけました。
前のカーオーディオと連携していて、操作は前で行えるようにしました。
はじめは順調で。「これならももちゃん、だいじょうぶ!」と笑顔でした。
発車前から「しま○ろう」のDVDを見ていました。
ところが、いざ、出発となった時。
映像が見られないのです。
前のオーディオと連携していて、走行中は映像が消えてしまうのでした。
意味がない!
当然、ももの大騒ぎが始まるわけです。作戦失敗。
たまには気分を変えてみようと、
窓を全開にして、空気が入れ替わるようにしてみました。
これはこれで、「車の変なにおいがない」とご機嫌だったのですが、
風が思ったより強くて、だんだん怖くなってしまい、
結局大騒ぎ。窓を閉めていつも通りの状態でした。
あの手この手をやっていくうちに、だんだん車酔いを気にせず、
眠りこけているうちに目的地に着く、という方式が定着していきました。
車の揺れに身を任せて、いつの間にか寝ていました。
やがて、私がメニエールなどを発病して、運転できなくなって、
普通に公共交通機関を使うようになりました。
今のももは、ちょっと心配することはありますが、
車に酔うこともなく、お出かけの際は自然とバスや電車に乗り込んで、
漫画を見ながら過ごしています。
学校の遠足でも、ほとんど酔わなくなったとか。
成長するもんですね。