同部屋で4日前に入院初日を迎えたお爺さん。
看護師にお名前は?と聞かれて
「織田信長です。」
「もう、何言ってんの、フフフ。」
看護師との会話で茶々入れて楽しそうであった。
キャバクラかなんかと間違えてるのか。
そんな軽口がだんだん言えなくなる爺さんが、切なくなる。
術後の経過のせいか、話してられないのだ。
あと新入り患者に手を取られてて、看護師さんも適当にあしらうようになる。
入院すると分かるが、話し相手はほとんどいない。
ケータイかテレビが主な1日。
後はたまに看護師から薬もらって、体温測って、体調聞かれるぐらい。
最近ではもっぱら、清掃のおばちゃんと喋ってる。
患者同士は話しかけにくい。
病気も入院の理由も聞きにくい。
こういう時、女性同士はいつの間にか数人で話してたりするので、性差もあるのかもしれない。
入院は2回目で、前回は閉鎖病棟だった。
その時の一ヶ月もやはり同じようなものだった。
多分、あまり手の掛かる患者じゃなかったからだと思う。
でも、本当はもっといろいろ、看護師や医者に聞いて欲しかった。
なぜかある患者さんと仲良くなって、その後はいろいろ話した。
それは今でも楽しかった思い出だが、残念ながら、今どこにいるかは分からない。
結局、退院したら知らない者同士に戻るのだから、患者同士、仲良くしてもしょうがないという諦めもあるかもしれない。
大部屋はいろんな病気の集合体である。
だから、変な念みたいのが溜まりやすい。
ずっといるとキツくなる。
だから、頻繁にトイレや散歩と称して、廊下を歩き、病院内を歩いて気を紛らわせる。
もしくはカーテンで空間を閉じたり、窓の外を眺めたりする。
晴れた街並み、雨の景色を眺めるだけでも、だいぶ違う。
話を戻すと、さっきのお爺さんは、動けなくなっていて、一人で歌い始めている。
隣の兄ちゃんは病歴が長く、飲む薬を理解してるから、ちょっと薬の種類が違うといっちゃ、薬剤師や看護師に突っかかっている。
もう一人の爺ちゃんは、若い看護実習生が来る時だけ元気だが、後は死んだように寝ている。
入院期間が長ければ長くなるだけ、やさぐれた患者が増えていくように思う。
そして、その澱が病室に溜まって、いらない疲れを感じてしまう。
今はただ、早く良くなって、家に帰りたい。
だから今日も、気分を入れ替えるために歩き回る。